
代表取締役
阿久津岳生
2007年から不動産会社や建築会社を連続起業し、不動産売上取扱高累計110億円を超える。
その間、アナログ的な慣習が続く不動産業界の課題を解決するためには、宇宙からの視点が必要だと考え、2020年にJAXA宇宙科学研究所内にある大学院に入学し宇宙技術を研究する。
その後、宇宙からの衛星データとAIの技術を掛け合わせ、地球上の不動産取引の課題を解決するために、研究室の仲間と共にスタートアップとして起業し、2023年にはJAXAベンチャーとして認定される。
宇宙からAIで不動産取引を創造
本日はどうぞよろしくお願いいたします。まず初めに、御社の事業内容をお教えいただけますでしょうか。
はい、一言で言うと、宇宙から地球の不動産取引を想像するウェアサービスを開発しているというところです。宇宙から不動産取引ってどういう事?と思われるかもしれませんが、衛星データをAIで画像解析して、駐車場とか空き地等をAIで検知し、ホーム局の同期データとシステム連携して所有者が誰かを瞬時に分かるようなシステムを開発しています。
それはどんな課題を解決するのですか?
不動産流通の売りたいとか貸したいという情報は非常に貴重です。例えば、一人が売りたいという物件があれば、買いたいという人が何百人もいるわけです。だから不動産取引ではこの情報を取りに行くことが非常に価値があるのです。
なるほど、その情報を取りに行くのが重要なのですね。
そうです。実際、不動産取引が始まるためにはこの情報が必要です。この情報をシステム化したのが今回のサービスです。例えば、ある物件が欲しいと思ったら、我々のシステムで売りそうな物件を自動的に見つけ、その際所有者も分かるので、その人にアプローチできます。
それは便利ですね。大手の不動産会社からも注目されているわけですね。
はい、そうです。例えば衛星データを使って古いボロボロの家や空き地、駐車場を検知したり、行政文書を調べて相続や差し押さえられた不動産を把握する方法もあります。この情報が我々のウェア上に上げられるので、ユーザーである三菱地所や三井不動産、コインパーキングの会社などがその情報をキャッチしてアプローチできます。
それは非常に興味深いですね。声を先に拾い上げるというより、その状況を見て営業をかけに行くことができるのですね。
その通りです。状況を見て適切なアプローチができるようになっています。
なるほど、非常に分かりやすい説明をありがとうございます。
ホームページを拝見したところ、社名にもなっている「ペネトレーター」という装置を知ることができました。これは今開発段階の装置なのですか?
はい、実はペネトレーターというのは惑星の不動産探査をする宇宙探査機なんです。ホームページで写真をご覧になったかもしれませんが、ペネトレーターを開発しています。私たちの会社のビジョンは、宇宙の不動産市場を創造することです。今は地球の不動産に関するWHEREというサービスを提供していますが、これがある程度成功したら、次は火星の不動産に取り組みたいと考えています。そのためにはまず火星を調査する必要があります。ペネトレーターを使って火星の不動産探査をしようというのが将来のビジョンです。
なるほど、火星の不動産市場を作るために調査を行うのですね。
そうです。例えば、火星の土地の状態や割れ目、高低差などの情報を衛星の映像で把握し、最初のステップとして火星を調査します。まだ誰も住んでいませんが、まずはその基盤を作ることが重要です。我々の技術を使ってそれを実現しようとしています。
それは非常に大きなビジョンですね。しかし、相当な資金が必要なのでは?
はい、何百億円という規模の資金が必要です。ですので、まずはWHEREというシステムを地球上で成功させ、その開発資金を得ることが重要です。WHEREの成功によって得た資金で宇宙探査機を作り、火星の不動産市場を開拓するという流れです。
なるほど。では、WHEREとペネトレーターは直接的な関わりはないということですね。
そうです。外部にはWHEREを提供していることしか言っていませんが、内部的には火星探査に向けた大きなプロジェクトが進行中です。
素晴らしいですね。とても興味深いお話をありがとうございます。
社名について、次の質問があります。なぜ現在の事業をしようと考えたのですか?ペネトレーターにやはり思い入れがあるという事でしょうか。
そうです。私が所属していたのは、相模原市にあるJAXAの宇宙科学研究所で、田中研究室に所属していました。そこで田中先生、私、そしてもう一人の後輩である今川の3人でスタートしました。私はペネトレーターの研究開発を行っていて、今川は月のクレーターを衛星データを使ってAIで解析する研究をしていました。毎週行われる研究発表会で彼の研究を聞いているうちに、月ではなく地球でこの技術を応用できるのではないかと考えるようになりました。
なるほど、それで現在の事業を始められたのですね。
実は私、以前に不動産会社を10年以上経営していた経験があります。その経験から、地球でもこの技術を使って有用な不動産取引ができるのではないかと思いました。それで今川に相談したところ、2週間ほどで最初のプロトタイプが出来上がりました。このプロトタイプで、衛星データを使って世界中の不動産情報を瞬時に取得できることがわかり、感動しました。これで何かサービスを起こせると確信しました。
それで、サービスを立ち上げることになったのですね。
はい、最初は住みやすさの見える化という事業をやっていましたが、なかなか売れませんでした。住みやすさランキングなどは人によって違いますから、例えば小学生の医療費が無料の市区町村があっても、小学生がいない家庭には意味がないとか。そのため、衛星データやオープンデータを組み合わせて、その人にとっての住みやすさを点数で教えるサービスを作っていました。しかしニーズに合わず、なかなか売れませんでした。
なるほど、それは難しいですね。
はい、そうなんです。それでもう一、二年くらい続けていたのですが、全然事業化できないところにそのプロトタイプが来て、これは行ける!となったんです。そこで思いついたのが、衛星データを使って不動産情報を瞬時に取得するサービスでした。これに賭けることにしました。
それが現在のサービスである、WHEREが生まれるきっかけになったのですね。
そうです。WHEREが生まれる前は現地調査などを行っていましたが、衛星データを使って、例えば緑が多いとか、気温とか、温室や気圧のデータも含めてエリアを数値化し、オープンデータと組み合わせて犯罪率や交通事故なども調べることができました。例えば、カフェが好きな人なら周囲にどのくらいのカフェがあるのか、その人に合わせた住みやすさを提供することができるようになりました。
なるほど、それはすごいですね。
以前のサービスでは、ビジネスコンテストなどで評価されて賞を取ることもありましたが、実際に買う人が少なかったです。そこで現在の新しいサービスに転換することにしました。
サービスを開始された時からペネトレーターという社名で活動されていたのですか?
いえ、その時はスームという社名とサービス名でやっていました。しかし、WHEREというサービスに切り替えた時に社名も株式会社WHEREにしようと思ったのですが、せっかくペネトレーター開発を行っているのでそのままにしました。今ではその社名が気に入っています。ただ、いろんなスタートアップを見ると、サービス名を社名にしている会社が多いので、もしかすると何年後かに変えるかもしれません。(笑)
会社の将来のビジョン、例えばペネトレーターのことや、現在のWHEREの次のステップについて教えていただけますか?将来の展望があればお聞かせください。
そうですね、全体的なビジョンとしては、宇宙の不動産市場を創造することです。20年、10年、5年というビジョンがあります。20年後は火星の不動産市場、10年後は地球の不動産市場、そして5年後は企業価値を上げるためにD3を達成するという流れです。
ありがとうございます。火星での不動産調査にペネトレーターを使う事はイメージできているのですが、地球ではペネトレーターを使う事はないのでしょうか?
いいえ、地球での実験はずっと続けています。毎年JAXAからペネトレーターに対する実験の請負があります。少額ですが、実験を行いデータを納品しています。
素人の質問で恐縮ですが、大きいドローンに付けて飛ばして、投下させるという感じなのでしょうか?
そうです。地球上では、大きめのドローンに装置を付けて投下し、地面に刺して実験を行います。何千Gという衝撃に耐えられるような精密機械を開発し、通信が取れるかを確認するための実験です。
阿久津社長の夢は何ですか?また、幼少期はどんな人でしたか?
小さい頃から「変わってるね」と言われるのはすごく褒め言葉でした。嬉しかったですね。わざと変わったことをしていた部分もあります。幼少期はそんな感じでした。そして、宇宙飛行士になりたかったという夢がありました。当時はウルトラマンになるのと同じくらい夢のようなものでしたね。
それで、ずっと起業を続けていたのですね。
そうです。社会人になってからは8社ほど起業しました。そのうち2社は倒産させてしまいましたが、不動産会社や建築会社などを連続で起業しました。最終的にホールディングス化した時に、もっと面白いことをやりたいと思うようになりました。メンバーには「一つ上の視座を持つことが大事だ」と言っていましたが、自分自身ももっと上の視座を持ちたいと考えるようになりました。世界の上は宇宙だと思い、小学校の頃の宇宙飛行士になりたいという夢が再燃しました。
それでJAXAに進まれたのですね。
はい、日本の宇宙といえばJAXAなので、JAXAの大学院に受験し、研究生として宇宙科学研究所で研究を始めました。
連続起業されていた期間のスタートは大体何歳ぐらいでしたか?
29歳ですね。29歳の頃に連続起業をスタートして、五年くらい前、つまり2019年くらいまで続けました。ですから、僕が30歳から41歳くらいまで、約10年間起業活動をしていました。その後、JAXAの研究機関に2〜3年在籍して、その後に宇宙ビジネスとしてスタートアップを始めました。
ありがとうございます。JAXAの研究機関の在籍中にペネトレーターとの出会いを果たされたのだと思うのですが、何がきっかけだったのですか?
それがやっぱり田中先生の影響ですね。田中先生は1990年から20年ほどJAXAのプロジェクトを続けてきた探査機の第一人者でした。2007年からはペネトレーターの研究もしていました。
ペネトレーターは日本だけにあるものですか?
ペネトレーターという名前で行っているのは日本だけです。宇宙探査機にはソフトランディングとハードランディングという方式があります。ソフトランディングは逆噴射しながらゆっくり着陸する方法で、ハードランディングはそのまま自由落下で着陸する方法です。
それぞれのメリットとデメリットをお教えいただけますか?
ソフトランディングは着陸の衝撃が少ないですが、エネルギーコストが高くなります。ハードランディングは突き刺さるように着陸するため、衝撃に耐えられれば地表に到達できます。ロシアやNASAもこの研究をしていましたが、成功したのは日本だけです。火星は大気があるため、月よりもハードランディングが簡単です。
なるほど、それで日本の技術がトップなんですね。田中先生のチームがその技術を引き継いでいるのですね。
そうです。田中先生は南極で実験を行うなど、ペネトレーターの研究を続けています。私もその研究に関わっています。
田中先生のチームがペネトレーターを愛し続けているということですね。
そうです。田中先生、私、そしてもう一人のチームメンバーで続けています。JAXAからのプロジェクトも請け負っていますが、JAXA自体はペネトレーターのプロジェクトを中止しています。しかし、私たちはその技術を引き継いでいます。
それは素晴らしいですね。ペネトレーターという名前も好きだとおっしゃっていましたが、どんな意味があるのでしょうか?
ペネトレーターは「突破する」という意味があります。ラグビーやバスケットボールの戦略用語でも使われます。強力なディフェンスを突破する戦略という意味で、スタートアップにとても適した名前だと思いました。
なるほど、とても興味深く貴重なお話をありがとうございます。
今のご自分に繋がっている経験や実体験について教えてください。
そうですね。ターニングポイントや重要な出来事は色々ありますが、特に影響を受けたのは東日本大震災の経験です。その時、家が津波で流されている映像を見ました。
まず、家一棟に対して凄いドラマがあるんですよ。お父さん、お母さんが一生懸命働いて、土地を探して、述べ 、何百人の大工さんが関わってできていくんです。しかし、それらが簡単に流されていくのを見て 、家作りが嫌になってしまいました。
それまで私は、不動産や建築で利益を追求するだけのビジネスをしていましたが、震災の出来事が大きな転機となりました。
具体的にはどのような出来事があったのですか?
震災後、ディズニーのニュースを見ました。キャストが震災の際にお客様と一夜を過ごし、神対応をしたという話でした。寒い中、着ぐるみを無償で配ったり、ポップコーンを無料で提供したりと、素晴らしい行動を見せてくれました。その時にキャストが「ハピネスを提供する」という理念を持って行動していたことに感動し、私もその理念に共感しました。そこで、家を作ることが嫌になった私は、自分にとって本当の「理念」を見つけるため、ディズニーでアルバイトを始めました。
ディズニーでアルバイトを!どんなことをされていたのですか?
ディズニーシーのヴェネチアンゴンドラのキャストとして働いていました。船を漕ぎながら歌を歌っていたんです。最初は潜入取材のような感じでしたが、一ヶ月後には本当にハピネスを提供する人間になっていました。
その間、どんな過ごし方をしていたのですか?
昼間はディズニーで働き、夜はひたすら理念の勉強をしていました。哲学や宗教、幸せに関する書籍を片っ端から読みました。ある夜、寝ていたら突然、走馬灯のように幸せだったシーンが頭の中に流れました。親から褒められたり、賞を取ったりした時のことが映画のように浮かんできて、それが驚きと共に出てくることに気づいたんです。
その時、驚きを提供することが大切だと感じ、”「お」を作る”という理念にたどり着きました。驚きや喜びの瞬間を生み出すことが私の目標となり、それ以来全てのエネルギーを「お」を作ることに注ぎ込んできました。この理念を基に、WHEREやペネトレーターのプロジェクトにも取り組んでいます。
WHEREに注ぎ込むエネルギーもその一環ですか?
そうです。WHEREは不動産市場に「お」を提供するサービスです。全てのエネルギーをそこに注ぎ込み、驚きや喜びを生み出すことが私の目標です。ペネトレーターのプロジェクトも同様に、「お」を作るために取り組んでいます。
理念を見つけられた経験の中で、大切だと感じられた事についてお聞かせ頂けますか。
追い込まれたときに何かが降りてくるというのは、よく言われることですが、本当にそうだと感じました。一番参考になったのは吉本隆明の「言語にとって美とは何か」という本でした。その中で、ゴリラに言葉を教える実験がありました。ゴリラが「ミルク」という言葉を覚えて、お腹が空いたときに「ミルク、ミルク」と言うと、人間がミルクを与える。ゴリラがミルクを飲み干した後も「ミルク」と言う。それを吉本隆明は、同じ「ミルク」という言葉でも、最初はコミュニケーションを取るための言葉で、次は内から出てきた感想の言葉だと言っていました。
これは大事なことで、同じ言葉でも出所が違えば意味が違う。僕も最初は「幸せ」という言葉が嫌いでした。偽善的に感じていたからです。しかし、この本を読んで、同じ「幸せ」という言葉でも、どこから出てくるかで意味が変わることに気づきました。ディズニーの理念である「ハピネスを提供する」という言葉も、最初は綺麗事に思えましたが、実際にキャストが行動しているのを見て、その理念が本質的であることを理解しました。
その後、ディズニーでの経験を通じて、僕自身も「ハピネスを提供する」人間になりました。そして、それが僕の理念になり、「お」を作ることに全力を注ぐようになったのです。言葉の出所が重要だと理解したことで、僕の人生も大きく変わりました。今では「幸せ」という言葉もよく使うようになりました。
この経験から学んだことは、言葉の本質とその出所が大切だということです。同じ言葉でも、どこから出てくるかで全く意味が違う。これは、理念や価値観を持つ上で非常に重要なことだと感じています。
大変興味深いお話をお聞かせ下さりありがとうございます。最後に、東大前 HiRAKU GATEに期待することはなんですか?
まず第一に、東大前 HiRAKU GATEに対する深い感謝の気持ちを伝えたいです。
今後に期待することとしては、交流の場をもっと設けてほしいと思います。運動会やゲーム大会など、入居者同士が楽しく交流できるイベントがあると、とても嬉しいです。ディズニーでもキャスト同士の交流を深めるために大会が行われており、それが非常に楽しかった経験があるので、ぜひ東大前 HiRAKU GATEでも実施してほしいです。また、日々のサポートには感謝しています。これからも引き続きよろしくお願いします。