
代表取締役CEO
青木 健
東京大学大学院総合文化研究科修了。記憶力日本チャンピオン、世界記憶力グランドマスター。東京大学では英単語を効率的に記憶する方法に関する研究を行っていた。福音館書店を経て、現在は「記憶」に関する様々なサービスを提供するスタートアップ企業を経営している。
様々な記憶に関するサービスを提供
会社紹介をお願いできればと思います。
はい。株式会社メモアカです。会社自体は、世の中のあらゆる記憶の課題を解決するといった内容で運営しています。今までどんな事業を行っているかと言うと、一つが記憶術です。記憶術を使えば、誰でも記憶を伸ばすことができるというものがあり、それをウェブサービスで提供しています。
「日本中、世界中どこからでも24時間365日、独学で学べるようなウェブサービス」がその一つです。他にも、オンラインの記憶術を提供する「メモアカclass」というスクールも運営しています。
加えて、今に至るまで書籍9冊、カードゲーム1個をリリースしてきました。メディア出演も多く、ちょうど今日の夕方にもJ-WAVEでラジオの生放送に出る予定となっています。
ありがとうございます。今度新しく夏に脳トレのアプリを出す予定とのことですが、そちらについて教えてください。
はい。特にあらゆるビジネスマンや学生たちに聞いたところ、人の顔と名前を覚えるのに課題を抱えている人が多いということが分かりました。大体50人ぐらいの方に聞いて、8割ぐらいの方がそういった課題を抱えていました。そこで、顔と名前を覚えられるようになるアプリ「カオナマエ」の制作に取り掛かっています。
記憶術という言葉があまり聞き馴染みがなかったのですが、それは造語ではないですよね?
そうですね。記憶法とか記憶術という言葉は昔からあります。例えばみなさん、英単語や歴史の年号、人の顔と名前などがなかなか覚えられないといったことがありますよね。しかし、実は記憶力は生まれつきではなく、練習すれば誰でも覚えられるようになるんです。
私たちのメモアカは、元々記憶力を競う競技「メモリースポーツ」の選手たちが作った会社です。私も元日本チャンピオンですし、COOの平田も僕の後の日本チャンピオンです。CTOの榊原も記憶のアスリートです。私たちはそういった記憶マニアたちが集まって作った会社です。
私たちは元々記憶力が良かったわけではなく、練習して色んなものが覚えられるようになった人たちです。そのノウハウをサービスにして提供すれば、もっと多くの人が覚えられるようになるのではないかという思いで始めました。
なるほど。それが最初に始まったのがスクールですね。
そうです。それが「メモアカclass」です。場所や時間に限らず安く提供するために、ウェブで出すようにしたサービスが「メモアカ」です。
「メモアカ」の記憶術は脳トレにもすごく効果があることから、より多くの層に広げていこうということで、今度脳トレアプリを出す予定となっています。
先ほどおっしゃってた夏に脳トレのアプリをローンチされるということで、そこは社会人とかがメインターゲットになる感じでしょうか?
はい、特にビジネスパーソンをターゲットにしていて、特に営業職とか、学校の先生とか、幼稚園や保育園の先生とか、何かしら人の顔と名前を毎年たくさん覚えていかなければならない人たちに向けてのアプリになります。出勤時間の電車の中で、本当に3分、5分ぐらいでできるようなミニゲームをやってもらって、「今から営業先に行くからちょっと顔と名前の練習しよう」と、ゲーム感覚で楽しく頭を鍛えて、覚えられるようになるといった形を目指しています。
なるほどですね。最初の記憶術というものは、結構広いターゲットに向けたものだったのですか?
記憶術は結構難しいなと思っていたんです。なぜかというと、記憶術を身につけたからって、何かのペインポイントを直接解決できるわけではないんですよね。例えば、記憶術を身につけて英単語を覚えるとか、弁護士になりたいとか、そういう具体的な願望を直接解決するわけではなくて、記憶術という自分の地の力を上げるもので、ちょっと遠回りに感じるんです。
ユーザーさんにとって、直接的ではないんですね。
そうなんです。直接的ではないからちょっと苦しいかなと思っていたんですけど、それをちゃんとやれば、何に対してもある程度汎用性を持ってできるので、薄く広く刺さるかなと思って出したんです。ただ、それを継続しないと効果が出にくいので、ちゃんとやってもらった人にはものすごい効果を感じてもらえるんですが、「記憶術を身につけて何になるの?」と思われた方にはなかなか使ってもらえないというのが課題ですね。
なるほど。会員さんはどれぐらいいらっしゃいますか?
今、数千人の方に使ってもらってるって感じですね。はい。
お客様というのは、どこをきっかけに入られたりとか、サービスを認知されることが多いですか?
やっぱり多いのは書籍だったり、メディア関係ですね。ラジオ、テレビ、新聞、雑誌とかで見てもらったりというのが多いみたいです。あと、僕達はYouTubeもやっていて、登録者数は3,400人ぐらいなんですけど、記憶術とか記憶法とかで調べたらトップに出てくるので、そういった形で知ってもらってます。僕らは顔出しすることによって、「こんな人たちが作ってるんだよ」というのを見て、安心感を感じてもらっています。Youtubeやテレビ、メディア、本などがその例かと思います。
エンタメのコンテンツ周り、あと大会の様子の配信などもやられてらっしゃいますね?
はい、やっています。編集とかも持ち回りでやったりしていますね。
とてもクオリティが高くてびっくりしました。頻度も結構高く上げてらっしゃいますね。
最初はクオリティが低くて良いので週に2、3回アップしていました。最近は動画の質を上げて月に2、3本ぐらいあげる感じでやってます。YouTuberとして伸ばすんじゃなくて、あくまで僕らを知ってもらう、 そして、記憶って面白いよねというのを知ってもらうための一つの打ち手だと思ってるので。更新頻度を意識するというよりは、ストックを増やしていって、少しでも面白いと思ってもらえるように行っているといった感じですね。
ありがとうございます。最初の質問に重複してしまう部分もあると思いますが、現在の事業を始めようと思ったきっかけについて教えていただけますか?
はい。元々私(青木)とCOOの平田で二人で作った会社ですが、最初は記憶の競技、メモリースポーツを広げたいと思っていました。私はサラリーマンをしながら、副業として土日や平日の夜に対面のスクールをやっていました。最初はうまくいくかもわからなかったので個人事業主として、平田は当時大学生だったのでアルバイトとして働いてもらっていました。
最初は全然うまくいかなかったのですが、始めて2、3年すると生徒さんがかなり増えてきました。その後、コロナが来て対面が全部だめになりましたね。4年ぐらい前に対面での授業をしないようにという通達があって、教室は全部クローズしようという話になりました。でも、やっぱり続けたい、続けて欲しいという声がありました。
さらに、元々対面のスクールは通えるエリアが限られてしまいますので、オンライン化しました。すると、日本全国や海外の日本人の方々も参加してくれるようになり、スクールは結構広がりました。その結果、生徒さんの数が増え、世界にこれだけ興味を持っている人がいるんだなと実感しました。それで、もっと安価に、そして自分の好きなタイミングで学べるようにオンラインで提供できないかと考え、メモアカというサービスを作りました。
現在はスクールとメモアカという二つの軸で運営しています。そうしていると、テレビなどで取り上げてもらえるようになり、相乗効果で本が出たり、いろいろなところから声がかかるようになりました。これが書籍事業の始まりです。色々な書籍を出していく中で脳トレの本がたくさん売れたり、ビジネスコンテストの審査員の先生から脳トレのサービスをやった方が良いというアドバイスをいただいたりしました。そのような経緯があって、現在の脳トレサービスに繋がっていったという感じです。
今のサービスの競合にあたるサービスや会社について教えていただけますか?
そうですね、弊社のスクールに関して言うと、記憶セミナーのようなものを単発で開催している会社さんはあります。そのあたりが競合になるかもしれません。ただ、オンライン学習サービス自体は、同じような形式をとっているところは基本的にないので、直接的な競合はあまり存在しないかもしれません。
今度、脳トレについては既存のマーケットに進出しようという意識があり、今後絶対に伸びるマーケットだと考えています。例えば、「BrainWars」というトランスリミットさんが出している脳トレの対戦ゲームは、2,000万ダウンロードを超えています。世界で展開していて、日本人ユーザーは全体の5%程度です。最初から世界展開を意識していて、かなり伸びているゲームです。
他にも有名な川島隆太先生の「脳を鍛える大人のDSトレーニング」があります。累計で何千万本も売れているんですよね。脳トレゲームに関連する市場自体で言うと、3,000億円くらいの売り上げがあります。潜在的な市場はもっと大きいでしょう。少子高齢化は日本だけでなく、世界的な現象ですから、2027年には脳トレや認知症予防、ビジネスマン向けの脳のトレーニング市場が7兆円になると言われています。今後、かなり伸びていくマーケットだと思います。私たちの強みが生かせて、まだ取り切れていない市場があると考えているので、そこに進出しようと考えています。
先程のお話にあった「BrainWars」のようなサービスは海外市場が多いと思うのですが、今後、海外展開についても考えていらっしゃいますか?
もちろんです。顔と名前を覚えるということに関しては、日本人に限らず、アメリカ人でもドイツ人でもアフリカの人々でも、みんなが抱えている課題だと思います。最初はベータ版のような形で国内向けに提供しますが、素材や表記を少し変えるだけですぐに海外展開も可能です。なので、海外展開もかなり意識して作っています。
少し話が変わってしまいますが、青木さんの幼少期の人物像や、記憶術の大会に出ようと思ったきっかけ、その背景についてお伺いしたいです。
そうですね。特別頭が良かったというわけではなくて、普通の公立の小学校、中学校、高校に通っていました。サッカーが好きでしたし、学校の勉強もそこそこといった形でした。記憶術に出会ったのは大学に入ってからです。それまでは特に記憶力がよかったわけでもなく、大学受験では失敗し、浪人しています。しかし、大学院の入試では記憶術を使って、比較的スムーズに東大へ入ることができました。
なので、記憶術に関するベンチャーを行っているからといって、生まれつき頭が良いわけではありません。みんなに可能性があるということを信じています。記憶にコンプレックスを持っている人や、「自分の記憶力は悪い」と思っている人がたくさんいると思いますが、それが少しでも向上して、自信を持ってもらえるようにしたいと思っています。実際、私自身は特別な天才ではなく、ごく普通の子供でした。ただ特に勉強が嫌いといったわけでもなく、親から勉強を強制されたわけでもなく、強いて言うならば算数が得意だったかなという感じです。
なるほど。本当に先程おっしゃっていた記憶術というのは、誰でもちゃんとやれば取得できるスキルなんですね。よくわかりました。
そうですね。記憶術は誰でも練習すれば習得できるスキルです。私たちの会社では、そのノウハウを広めて、みんなの記憶力を向上させるお手伝いをしています。
ホームページを拝見させていただいて、アパレルもすごく可愛いですね。ゾウさんのロゴについてお伺いしたいです。あれはどういう意味があるのでしょうか?
そうですね、実はこのゾウのロゴには深い理由というか、それ自体には特別な意味はないんです。ただ、メモリースポーツ業界の慣例として、大体ゾウのロゴを使うんです。なぜかというと、ゾウは非常に賢い動物で、その象徴として使われることが多いからです。
なるほど。
あと、ゾウだと賢いイメージがありますし、嫌われる動物ではありません。みんな好きですよね。怖いというよりも可愛らしいし、大きくて優しくて賢いというのは非常に良いイメージです。他にもイルカを使うことがあります。イルカも人懐っこくて賢いというイメージがありますし、海の動物だとイルカ、陸の動物だとゾウという感じで使われることが多いです。
結構、お客様の中には小さいお子様もいらっしゃるのでしょうか?
そうですね。スクールは小学生から上をターゲットにしています。実はまだ未就学児、幼稚園児の子どもたちはターゲットにしていません。ただ、そこはこれから開ける可能性は十分あると思っています。記憶術は論理的で、理屈があるので、理解できる年齢としては小学校三、四年生くらいが最適です。そのため、そこをメインに来てもらうようにしています。ただ、その下の年齢層も今後取り入れたいと思っており、4〜8歳くらいの子ども達が楽しみながら記憶力を育てることのできる知育カードゲームを11月に出す予定です。
なるほど。それは楽しみですね。では、今のユーザーの中で一番のボリュームゾーンは、先ほどおっしゃっていた小学生くらいの層でしょうか?
全体的に言うと、元々は小学生くらいがメインターゲットになるかと思っていましたが、意外とそうではなく、向上心のあるハイクラス層のビジネスパーソンに人気があります。しっかりとやってくれる方は、所得の高いお仕事をされている方や経営者、お医者さん、大企業に勤務されている方などが多いです。また、若手の優秀なサラリーマンも多いですね。男性の方が多く、割合としては7割が男性です。
そうなんですね。男性の方が多いんですね。
はい、そうです。小学生、中学生、高校生もいますが、保護者の意識が関わってきます。知的好奇心の強い子どもたちが多いですね。結果的に、みんなが憧れるような中学・高校や大学に進む子が多いように感じます。
コロナ後に登記された感じですか?
元々うまくいくかどうかわからなかった事業だったので、サラリーマンをやりながら並行で始めたんです。実際、スクールを始めて登記するまでに5年くらいかかりました。その間は本当に下積みというか、色々なテストをしてチャレンジをしていました。給料をもらいながらだったので、失敗してもいいという気持ちでやっていました。これでいけると思ったタイミングで起業したんです。少しブランクがありましたが、2022年の9月に登記しました。正式に法人化して一気に伸ばしていこうという感じですね。サラリーマンをやりながらでは、なかなか伸ばせないので。
なるほど。それでは、今の事業に携わって5年プラス創業後の2年、合わせて7年くらいですね。その中で一番苦労したタイミングや大変だったことは何ですか?
そうですね。やはり始めたばかりの頃、特に7年前のことを考えると、自分たちのやりたいことをやろうとしていたんです。でも、自分たちのやりたいことだけではビジネスにならないんだなということは頭ではわかっていましたが、改めて痛感しました。サラリーマンをやりながらだったので、赤字でも別の給料があるから、やりたいことでうまくいくかどうかのチャレンジをしていました。それは非常に重要な期間だったと思います。でも、当然それだけではだめで、会社として事業を伸ばすためには、困っている人のペインポイントに向けて、どのくらいの単価でどれくらいのコストをかけてやっていくかを考えなければいけませんでした。起業当初はその意識が足りなかったかなと思います。今はそこを強く意識して、稼げる領域に行くことをすごく意識しています。それが当初の課題だったと思います。
先程、ピボットの話がありましたが、現在のメモアカさんの授業や記憶術のオンラインサービスの前に他の事業をやっていたのですか?
そうですね。元々僕も平田もメモリースポーツ競技から始めたので、その競技のスクールを作りたいという感じでした。サッカースクールや野球スクール、囲碁道場や将棋スクールのようなものですね。しかし、それでは競技をやりたい人は少なく、裾野が広がらないと感じました。例えば、テナントを借りてスクールを運営すると、家賃や給料、道具代などのコストを考えると収益が見込めませんでした。そこで、もっとペインの強いニーズに応えるために、例えば英単語を短期間で暗記させるプログラムを提供する事業などに転換しました。記憶術を包括的に教え、勉強に生かすためのサポートを行うプログラムなども提供しました。
今後のビジョンについてお聞かせください。新しいサービスのローンチや社員の増加についてもお話されていましたが、今後の展望を教えてください。
弊社の理念は「覚えることが楽しめる世界を創造する」というものです。あらゆる記憶の課題を解決するために、既存のサービスだけでなく、次々と新しい課題に取り組んでいきたいと考えています。例えば、医師国家試験などの資格試験に合格させるためのサービスや、製薬会社や薬局、高齢者施設などと連携して認知症を予防するサービスを作ることもできたら良いと考えています。その場合、「記憶」をテーマにサプリメントの開発や幼児教育にも取り組むことができます。記憶の課題は数多く存在し、それらを一つ一つ解決していくことが重要です。世の中の記憶の課題がなくなるまで、企業理念を強く意識して取り組んでいきたいと思っています。
最後に、現在入居されている東大前 HiRAKU GATEに期待することをお聞かせください。
東大前 HiRAKU GATEさんは非常に良い環境を提供してくださっています。前のオフィスは三鷹にありましたが、ここに入居してからは内部の交流や啓林館さんとのコミュニケーションも増え、東大も近いので東大の学生インターンとの交流もあります。これまで内向きだった交流が広がり、非常にありがたく感じています。また、いろんな会社さんとのシナジーを引き出せるようなことができると、さらに良いと思います。お互いの強みを生かして、新しいサービスを作り出すことができるようなコミュニティが形成されることを期待しています。